上を向いて歩こう!









「わあっ!すっごくいいお天気ですねぇ、副長、沖田先生!?」

新選組隊士で副長つきの小姓、神谷清三郎(本名:富永セイ 実は女子)は
副長の土方歳三と一番隊組長の沖田総司と共に町へ向かって歩いていた。

今日は土方と総司がそれぞれ自分の姉に贈り物を買うと言うので、
見立て役としてセイが同行する事になったのである。

土方にセイが女子である事が露見し、彼の小姓となってまだ日は浅い。
土方に知られるまではセイの秘密を知る人間は総司ただ1人であった。

「神谷さん!そんなにはしゃぐと転びますよ?!ちゃんと前を向いて歩きなさい!」
嬉しそうにはしゃぐセイをたしなめるように総司が言った。
「大丈夫ですよ!沖田先生は、いっつも私の事を幼子みたいに扱うんですから!」
そう言いながらセイはぷうっ!とほっぺたを膨らませた。

(( そーゆーとこが幼いって言うん(だ)ですよ! ))
土方と総司は同時に同じ事を思っていた。



「でも、副長や先生のお姉様はお幸せですね!」
先に歩いているセイが2人を振り向いてにっこりと笑って言った。
「「 は? 」」
土方と総司が同時に答える。

「だって、弟さんに贈り物をしてもらえるなんて!兄弟って、家族ってやっぱりいいですねぇ!」

「「 !! 」」
(( しまった! ))
土方と総司はまた同じ事を思い、顔を見合わせた。

セイは両親と兄を亡くしている。
その彼女に兄弟への贈り物の見立て役を頼むとは、残酷な事をしてしまったと思った。
目の前で兄弟の仲の良さを見せつけるようなものではないか…と2人は思っていた。

だが、何故か当のセイは大喜びの様子である。

「私、嬉しいですよ!見立て役に選んでもらって!」
「「 え? 」」

「だって!贈り物を選ぶって楽しいじゃないですか!その人が受け取って喜ぶ姿を想像したり。
愛情の籠った贈り物のお手伝いをさせていただけるんですから!
しかも、それがお姉様宛てだなんて!何だか私も仲間に入れていただいたみたいです!」

「神谷さん……。」「神谷……。」

土方と総司はそのセイの言葉に救われた気がした。
ひょっとしたら彼女は、自分達の心を読んだ上で言葉を言ったのではないか…そんな気がしていた。
頼んだ自分達が悪い事をしたと思わないように。落ち込まないように。





* * *





『おい、総司!お前ならあいつの好みがわかるだろ?何がいい?どれがいい?!』

『そんなのわかりませんよ!大体誰に聞いてるんですか!
野暮天の私がそんな事わかるわけないでしょう?!』



ここは小間物屋の店の中である。

セイが土方と総司の姉への贈り物を見立てている間に、
当の本人達2人はセイから離れてこそこそ話している。

ひそひそ話の内容は、
土方と総司で今日の礼も兼ねてここで何かを買ってセイに贈ろうというのである。

家族が全員亡くなってる以上、セイが家族から贈り物をもらう事は永遠にない。
ならば…と2人が兄代わりとして何かを贈るつもりなのだ。

しかし、見立てを頼むぐらいの2人である。何を贈って良いやらわからない。
そういうわけで、さっきから2人でもめているのである。




『おいっ!どうするんだよ!もうすぐあいつは決めそうだぞ?!』

『そんな事言ったって!私だってどうすればいいか!
おいしいお団子を選ぶんなら自信はありますけど。』

『団子をやってどうする!馬鹿っ!…それにここには団子はねぇ!!』

━━━━ それはそうであろう。「団子屋」ではなく「小間物屋」なのだから。 ━━━━




「?お2人ともどうしたんですか?」
どうやらセイは見立てを終えたらしい。こちらへやって来る。

『ひ…土方さん!もう時間切れです!何とかして下さい!』
総司が悲愴な声を出す。

『ああぁ〜っ!もうっ!しょ〜がねぇ!これでいいか!!』
土方が慌てて目の前にあった品を手に持ち、後ろ手に隠した。



「か…神谷さん。もう決まったんですか?」

「はい!えっとですね…副長のお姉様にはこの細工の入った柘植の櫛、
先生のお姉様にはこの漆塗りの簪です!」

セイが選んだ品を1つずつそれぞれに手渡した。


それは2品とも、決して派手ではないが質の良いものだった。
普段に使えて長持ちし、それでいておしゃれなものをと考えたらしい。

普段使いが出来るなら、それを見て常に弟の事を思い出せるだろうと考えたのである。




「そ…そうか!ご苦労だったな。俺と総司は支払いをして来るから、外で待っててくれ。」
土方がなるべくセイに背中を見せないようにして言った。

「はいっ!」



セイは言われるまま店の外で2人が出て来るのを待ち、
土方と総司は姉に贈るものとセイへの贈り物の分は折半して代金を支払った。





* * *





「ああ〜!本当に穏やかな陽気で気持ちいい〜!!」
帰り道、またセイが2人の先を歩きながら空を見上げて深呼吸している。



『お前が渡せよ!』

『嫌ですよ、恥ずかしい!土方さんが渡して下さいよ!
慣れてるでしょう?そーゆーの!』

『何?そーゆーのってのは、どーゆーのだ?!』

『妓の人によく贈り物を渡してるんでしょう?』

『してねぇよ!悪いがな!
最近じゃあ、そんな事しなくても相手が寄って来るんでな!必要ないんだよ!撒き餌は!』



土方と総司は横に並んで歩きながら、今度はどっちがセイに品物を渡すかもめている。





「……お2人ともさっきから何こそこそしてるんですか?……お店でもそうだったですよね?」

気づくと2人の気配を感じ取ってセイが振り向いて不審そうにこっちを見ている。

「「 う゛っ!!(店でもって…バ…バレてた?!) 」」
2人は同時に絶句した。



「あ…あのですね、神谷さん。今日はありがとうございました。
実はあなたに渡すものがあるんです…土方さん!」

仕方なく総司が口火を切り、品物を持っている土方に渡すように促した。

「渡すもの?」
セイが首を傾げている。



「///// か…神谷。今日はご苦労だった。助かった。これは俺と総司から…だ! /////」
土方が顔を耳まで真っ赤にしながらグイッ!とセイに品物を突きつけた。

「え……私に……ですか?」

セイが品物を受け取りながら、土方と総司の顔を交互に見て言った。
総司はにこにこと微笑み、土方は相変わらず真っ赤な顔をして視線を少しずらしている。

「……開けてもいいですか?」

「どうぞ!」「///// ああ。 /////」

セイが品物の包みを開けた。



「うわあぁぁ!!可愛いぃ!!」

中から出て来たのは京友禅で出来た匂い袋だった。

桜の模様が入った柄で匂いも甘くなく爽やかで、
男がつけていたとしてもおかしくない香りだった。



「ありがとうございます!とっても嬉しいです!!……でも、どうして私に?」

「今日のお礼と、それに……。」「///// あ…兄代わりの俺達から妹に贈り物だ!! /////」


「副長…沖田先生…!」
セイはしばらく2人を見つめた後、ポロポロと泣きながら土方と総司に両手を回して抱きついた。

「「 え゛ 」」
土方と総司はいきなり泣かれた上、抱きつかれてどうしたら良いかわからなくなった。


「ありがとうございます〜!」
セイは腕に力をギュッと込めて言った。


土方と総司は一瞬顔を見合わせた後くすっと笑い、
総司はセイの頭を土方は背中を、軽くポンポンと叩いた。

セイが顔を上げて2人を見ると、2人ともにこにこと笑っていた。
1人は未だに顔を真っ赤に染めたまま。





「さあ!帰るぞ?!」
「そうですね!行きましょうか?」
「はいっ!」

3人並んで歩きながら屯所を目指した。





セイは思っていた。

私は確かに家族を亡くしたけれど、新しい家族がここにいる。
やっぱり入隊して、隊に留まって良かった。


下を向いて立ち止まり俯いているのではなく、上を向いて歩こう!
そしたらきっと、今日のように良い事、幸せな事が待っている!



セイはそう心の中で呟きながら、晴れ渡った空を見上げた。







余談ではあるが、数週間後セイの元に土方と総司の姉から1通ずつ文が届いた。

それぞれの文には品物を見立ててもらった礼が書いてあった。



どうやら2人が姉への文に一言付け加えていたらしい。
神谷清三郎という者にこの品物を見立ててもらったと。





イラスト:春日







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『空を見上げるセイちゃん』の絵を作りました。
私が読んでて“うるうる”した所だし、セイちゃんの表情に力を入れて
皆さんにも それを伝えたいなって思いました。
タイトルにピッタリの挿絵になるのも良いと思うし。



=春日=
2004.06.16



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2作目のフリー小説です。

前作の『大童たち』と比べると短いですし、笑いが少ないですよね。
でも「歳セイ」・「総セイ」関係なく読んでいただけるようにと思って書きました。
なので、やっぱりセイちゃんは歳と総司、どちらとも恋仲ではありません。
小説の拙いところは、は〜ちゃん(春日)の素敵な挿絵が補ってくれると思います。(汗)

「弐萬打」本当にありがとうございました。
今後ともよろしくお願いいたします。



=菜緒りん=
2004.06.16



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いや〜可愛いっ♪セイちゃんも副長も総司も可愛い〜っ!!
照れてる副長がっ副長がぁ〜〜〜っっ///(落ち着け)
春日様のイラストも、まっすぐ前を見据えているセイちゃんのひたむきさが伝わってきます。
セイちゃんは家族を失ってしまったけど、もうひとつの家族といえる人達がいる。
決して一人ではなく、支えてくれる存在があってこそ人は生きていけるんですよね。
菜緒りん様、春日様、ありがとうございました!





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