『1 金と銀』





――金。
それは夜空に照り輝く満月の色、稲穂が揺れる実りの色。
――銀。
それは一面に広がる雪景色、浜辺に絶えず打ち寄せる波飛沫の色。


しかし、少女にとって二つの色は最も慕わしいひとの色。
昔は色なんて見えていなかった。
心を閉じて何も感じず、どんなに辛くても痛くても泣くことはせず声を出すことすら出来なくなった少女。
只々、生きる為の動作を繰り返していた無色の日々に突然舞い降りた二つの色。
その瞬間から少女の目に再び色が戻り始めた。
心も動きだし、かつての天真爛漫な笑顔をも取り戻した。

そんな時狼によってまた色は失われ、あるのはどこまでも深い闇のみ。
そこから救い出された時に見えたのはあの金と銀。
二度目の闇から救いだされた時に見えたのもあの金と銀。


今も二つの色はずっと少女の傍らにいて少女を包んでいる。
もう決して離れることはない―――。

【終】


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