『Katharsis〜後編〜』





キシ、と椅子の背凭れが小さく鳴る。
墨色に沈んだ窓に映るのは、ひとりの男。
整った鼻筋を、動かない眸を、絹糸にも勝る銀糸を、顎を乗せた左手を、白い斑が際限なく横切っていく。
硝子は、その秀麗な横顔を切り取った闇夜の雪に透かしていた。
音は無い。
霞んだ夕陽が室内を染めていた頃までは、頁を繰る手が乾いた音を立てていたが、その本もテーブルに放られたまま再び開かれる気配はない。
普通なら耳に届きもしない椅子の軋みが、いやに響いたのもそのせいだ。
一点に向けられていた視線が、ふと横に流れた。

「――せ、殺生丸さまっ!!」
慌しい足音と共に勢いよく開けられたドア。
不躾な訪問は、これで二度目だ。
殺生丸は眉根をよせたが、今回はその眸に畏縮する余裕もないらしい。
息を乱し、青褪めた顔は尋常でなく狼狽えていた。
「――何だ」
「っり、りんが……りんが家出しました……っ!!」
「…………何?」
一段と低い声で、眉間の皺をより深くして睨まれながらもやはり反応する様子はなく、完全に気が動転している。
「夕食だと呼びに行かせたら部屋にいないと言ってきてっ……邸じゅう探してもおりませんしおそらく外に出たのではないかと! わしが叱ったからでしょうか、でもあれくらいのこと一昨日にも言いましたがその時は何も……あっ、それともせっ――!」
本を頭に落とし、永遠に終わりそうもない騒音を止める。
正気づいたのか邪見はそこで漸く、椅子に座っていた筈の主が目の前に立っていることに気付いた。
「ひっ……もっ申し訳――」
平伏しようと上体を折った老僕を無視し、殺生丸は廊下に出て階段へと向かった。
彼には珍しい、急いた靴音を鳴らして。


「――はっはい、ずっと二人で立っておりました。今日は荷物が届いたのと、旦那様の他には誰も出入りしておりませんっ」
頭から足の爪先まで、棒のように固くして答えているのは門番だ。
以前は置いてなかった者を置くようになったのは、二ヶ月前のこと。
「庭に出たところも見なかったのか」
「一度お見かけしましたが、その時はご一緒に中へ入られたので……すっすみません!」
勢いよく頭を下げた彼らの耳に苛立たしげな舌打ちが響き、冷たい汗が背中を伝う。
主が使用人と直接話すなど考えられない上、不機嫌極まりないこの様子では必要以上に緊張するのも無理はない。
「殺生丸さま〜!」
彼らが顔を上げるタイミングを掴みかねていたその時、だいぶ遅れて邪見が走ってきた。
りんに付けているメイドも一緒だ。
「い、いかが致しましょう。この辺りの地理など知ってるわけがありませんし、日も落ちた上雪まで降ってますし」
「申し訳ありません! やはり付いてて差し上げるべきでした、ご様子もおかしかったというのに……」

「煩い」
抑揚のない低い声に、慌てふためいていた空気は竦み上がり、凍りつく。今の一言に比べれば降っている雪など綿毛に等しい。
だが、殺生丸の視界に彼らはもう道端の小石ほどにも映っていないようだった。
門を開けさせる時間も惜しげに、細く鈍い音を立て彼はあっという間に夜の闇へ消えてしまった。
「…………どう、致しましょう邪見様」
「ど、どうって……待つしか、なかろうが。――心当たりがおありなのかも知れんしの」
そう。
確かに殺生丸は何の考えもなしに邸を出たわけではなかった。
しかし心当たりというには頼りなく、またそれほど己がりんのことを知っているとも思っていない。
知ろうともしていないのだから。
ただ、この街でりんに関わりのある所といえばあそこしかない。
だからといってそこにいるとは限らないが、何故か他に選択肢は浮かばなかった。
――それにしても。
敷地を囲む塀は、邸の一階部分と同じくらいの高さ。
何もなしに越えられるものではない。
おそらく庭木に登って伝ったのだろうが、では降りる時は。
塀に掴まってぶら下がったとしても、地上まではまだりんの身長ほどの距離がある。
積もった雪も、衝撃を多少和らげたところでクッション代わりにはなるまい。
あまりに、無茶が過ぎる。
「あの……じゃじゃ馬が……!」


    *    *    *


―休業日―
閉め切られたドアにかかったプレートにも、雪は積もっていた。
人気のない大通りをぽつりぽつり、ガス灯が照らしている。
笠を覆う雪のせいか、初めてそれを見た者達が「夜を昼に変える」と称賛した光は滲み、物哀しくさえあった。
境界線も曖昧な偽りの月。その天蓋の中、舞い落ちる銀花にまじって、吐息が白く移ろいでは消えていく。
佇む少女は、雪空を仰いでいた。
不思議な気分だ。降っているのは雪の方なのに、まるで自分が吸い込まれていくよう。
足首のあたりが寒くなって、覚束なくて、ふらふらして。
視線だけが離せず、空に引っ張られている。
それに従い、ぼんやり身を任せていると元々頼りない視界が更にぼやけてきた。
当たり前だろう。
後から後から落ちてくる雪に顔を晒しているのだから、睫毛や目元にもかかって世界を塞いでいるのだ。
頭を軽く振ると、それ以外の部分にも積もっていることに漸く気付いた。
でも、今度は払わない。
音無く降り積もり、黒髪を、袖を、すべてを覆い隠してゆく白の結晶。儚く映し出された緻密なシンメトリー。
――綺麗だと、そう思う。
繊細に形づくられた芸術はふわふわ優しくて、でもどこか素っ気ない。
それがあのひとと重なって、りんは目の前のショーウィンドウへと視線を逸らした。
ぴっちりとカーテンで閉ざされ、中の様子は判らない。

でも、きっと変わらないのだ。
かつて自分がいた場所には美しく着飾った誰かが座り、正しい微笑みを向けているに違いない。
そのガラス玉の眼に、今の自分はさぞ滑稽に映ることだろう。
胸の奥で、噛み合わない歯車が悲鳴をあげる。
それは一瞬だけりんを突き刺したが、すぐに白く霞んでいった。
多くの人が行き交い、喧騒と雑多な色彩に溢れた街はしんしんと、永(なが)の眠りについたよう。
雪は音を吸い込むというが、色も温度も何もかも呑み込まれた虚空の世界だ。
段々、立っている感覚すら薄れて自分という存在がとてもあやふやになってくる。
(このまま埋もれていけば、人形に戻るのかな……)
そんな気が、した。
今の自分自体が、夢にさえ思わなかった嘘みたいなものなのだから。
ただ、まだ言えていないことがある。
それだけは伝えたかった。
……贅沢、だ。
助けることが出来ればそれで充分だった筈なのに、いつの間にかそれ以上を望んでしまっている。
恵まれ過ぎたこの二ヶ月、その間で膨らんでしまった欲にりんが唇を噛んだその時。

「――……りん」

唐突に、その声は鼓膜を震わせた。
全身が脈打ち、身体中の筋肉が硬く縮む。
喉にまで力が入って呼吸がうまく出来ない。
急に回りだした血が、ごうごうと音を立てる。
はち切れそうな心臓の音がうるさい。
なんで。どうして。
間違えようのない、聞きたくない、でも何よりも求めているその声を聞いた途端、何か熱いものが溢れ返って染み渡る。
息を吹き返す。
やっとのことで首を動かすと、耳に届いた声よりもずっとそのひとは近付いていて、見下ろす剣呑な眸に捕らえられた。
心臓はばくばくと騒ぎ立てているのに頭の中は真っ白で、何一つ言葉が出てこない。
おもむろに伸ばされた手に、りんは反射的に怯んでぎゅっと目を瞑った。
だが、いつまでたっても予想した衝撃は来ず、手は黙って頭から肩、袖や裾へと乱暴に撫ぜていく。
そろそろと目を開けると、男は少女に積もった雪を払っていた。
それが終わるとコートを脱いで、少女にかける。
大きすぎるのは当然で、裾もだいぶ引き摺ってしまう。
濡れてしまうと、慌てて返そうとしたら拒まれて。
どうしたらいいのか思いあぐねている少女の手を取り、あからさまに柳眉を歪めた。

「何度言えば判る」
腹立たしさを隠そうともせず。
「コートくらい着ろと言った筈だ」
上着の内ポケットから出したハンカチを銜えて思いきり引く。
絹を裂く音と共に、無残に破れた白練を両手に巻いた。
「今はこれで我慢しろ。戻ったら手当てさせる」
「え……」
何のことか、判らなかった。
掌を見ると巻かれた布の隙間から赤黒い色が覗いている。
赤くなった指や手の甲にも細かな擦り傷があった。
枝に引っかけたのか、ワンピースも所々ほつれたり裂けているのに気付き、りんは動揺した。
「なん、で……」
「こんな無茶をすれば当然だ。――気付いてなかったのか?」
半ば放心したように頷く少女が俄かには信じられず、殺生丸は一つの疑惑を抱いた。
それの命ずるまま、痛々しく染まった両頬に手を伸ばして躊躇なく横に引っ張る。
「いっ、いひゃい……」
「痛みを感じるか?」
頬を押さえ、確かな意志をもってこくこく頷くと、今度は少女の手ごと頬を包み込んだ。
「寒くはなかったのか」
「……うん、さっきまでは寒くなかったし、痛くもなかったよ。でも今は……あったかくて、寒くて痛い」
頬と同じように鼻を真っ赤にし、瞳を僅かに潤ませながら答えた少女に殺生丸は苦笑を漏らした。
しかし、抱き上げて帰ろうとした矢先に少女は急に抵抗を示した。
「っや、だ……っ! 殺生丸さま、やだ降ろして……もう、戻らな――」
「黙れ。戯言は聞かん」
多少暴れたところで殺生丸には何の意味もないのだろう、足を止める様子はない。
――来てくれて、驚いたけど嬉しかった。
それはどうしようもない事実だ。
でも、その為に邸を出たわけじゃない。
自分にはあの場所にいる資格が無い。
戻って、何をしたらいいのかも判らない。
なのに、やっぱりこのぬくもりを失いたくないと思ってしまう。
りんは渦巻く懊悩を持て余し、手に巻かれた布を握り締めた。


殺生丸がりんを連れ帰った時、普段ならとうに帰っている通いの使用人達はまだ全員残っていた。
もちろん殺生丸が命じたのではなく、邪見の話によると無事に帰るまで待つと言って聞かなかったらしい。
彼らはりんの状態を心配しつつも、取りあえず大きな怪我を負ったりしていないことに安堵の息をついた。
そしてここでも、殺生丸は一切の説明をしなかった。
「風呂に入らせろ」
たった一言、あの夜と同じことを言っただけ。
あらかじめ湯は用意してあったようで、メイド達に連れられていったりんは思ったより早く戻ってきた。
コン、コン、危うく聞き逃してしまいそうなほど小さなノックが、マホガニーのドアを打つ。
返事をしてもなかなか入ってこないので、焦れた殺生丸がドアを開けるとりんはびくりと肩を竦ませた。
――夕方の時とは反対だな。
そう、殺生丸がりんを呼んだのは書斎。
壁一面の本棚を背に殺生丸が座って促すと、観念したようにりんは向かいの長椅子に浅く腰かけた。
ゆったりした作りのペニョワール(化粧着)。
アイボリーがランプの光で淡い陰影を帯びる。
膝の上で固く握った手には包帯が巻かれ、俯いたまま。

「食事はしたのか」
「うん。……スープと、プディングとりんご。消化がいいように、って……」
「そうか。――お前が何を思ったか知らんが、勝手な憶測で勝手な真似をするな」
「……だって……っなら、どうして、」
「理由など要らん。私はお前を手放すつもりは無い、それだけだ」
「なにも……なにも求めてないって……!」
「何かを務めさせる為に置いている訳ではない」
それでもりんはまだ、泣きそうな迷子の顔をしている。
殺生丸は溜め息をひとつ吐いて腰を上げ、戸惑うりんの腕を掴んで立ち上がらせた。
そのまま書斎を出て、半ば強引に連れられた先は殺生丸の寝室。
問う暇もなかった。

暖炉とランプの灯りが照らす部屋の中、左側には天蓋のかかった大きなベッド。
その反対側に置かれた三人掛けソファにりんを押しつけ、ライティングデスクから包みを持ってきて前のテーブルに置く。
見覚えがある大きな包み、りんは記憶を辿って夕方に書斎へ行った時にあったことを思い出した。
アンティックゴールドの布で包まれた、大きな長方形の箱。
「開けろ」
殺生丸の意図を掴みかね、りんはおそるおそる立ち上がった。
布の滑る音、次第に露になっていく箱と共に、仄かに香が漂う。
りんはその匂いに憶えがあった。でも、そんなことがある訳がない。
すぐに考えを打ち消したが、やがて現れた物にそれを肯定せざるを得なくなる。
「……どう、して」
「明日に渡すつもりだったが、まあどちらでもいい」
一つの箱だと思ったものは大小四つの箱だった。
すべすべとした刈安色、細かい板目の桐の箱。
独特の香りに懐かしさがこみ上げ、ふと、さっき食事をした時のメイドの言葉が脳裏に浮かんだ。

――本当は、用意してた料理をお出ししたいところですが。

念入りに調えられた食堂で、彼女はそう言っていた。
特別な、日だからと。
玩具屋にいた頃、店の中に飾られていたからツリーについては知っていた。
お客と店主の会話で、贈り物をすることも知っていた。
けれど、それと殺生丸とが全く繋がらず、昼間にツリーを飾ったことも頭からすっかり抜け落ちていた。
そもそも知識としてはあっても、まさか自分の身に起こるとは思ってもいない。
だから《特別な日》が何なのかも、今目の前にある物の意味もすぐには理解出来なくて。
「――開けないのか」
「う、ううん、そうじゃなくて……えっと、じゃあ……」
現実になかなか追いつけない頭を叱咤し、そうっと箱に手を伸ばした。
向かい合うソファ、その間にある円形のテーブルに全部並べることは出来ず、一番大きな箱を残して後の三つはソファに置いた。
ことり、ゆっくりと蓋を開けて重ねられた畳紙をめくる。
また、鼓動がうるさい。

そこにあったのは、泣きたくなるくらい鮮やかな、圧倒的な色の世界。
引かれるように手に取ると、滑らかにしっとりと膚に添う。
それは艶やかな光沢を放つ深紅の、振袖だった。
綸子地に紗綾菱の地紋が光の加減で浮かび上がり、裾は緩やかな流水に片輪車。
その上で舞う花々は、黄丹の大振りの牡丹と石竹色の梅、それから白菊。
淡く縁取りされたぼかし染めの友禅は、華やかでありながら清楚に、可憐に咲き誇っている。
所々にのぞく葉の緑も、ほどよく全体を引き締めていた。
継ぎ目で模様が切れない絵羽模様は、衣桁に掛ければそれだけで立派な芸術となる。
合わせる帯は卯の花色の繻子。
銀糸と金糸で毘沙門亀甲を、地色と同系の雪白で小花を唐織りしたものだ。
主張しすぎない、控えめな白の色合いは深紅を引き立たせ、一見地味のようでも決してそうではない精緻な図柄を金銀が彩る。
振袖の色に合わせた草履や白の半衿、薄桜の長襦袢など、着るために必要なものは全て揃えてあった。

「何か、足りないものは?」
「ないよ……でも、こんな上等なもの……」
「気に入らなければ捨てろ」
「ちがっ……そうじゃなくて……」
「私は意思を示した。他に何がある」
「……だって、あたしは……」

――役立タズノ人形ダカラ。

言い淀み、沈黙してしまった少女に、男は少々苛立った様子で腰を上げた。
テーブルを回り、靴の爪先がぶつかるほど近付いて見下ろしてくる。
りんも立っているのだが、いかんせん身長差が頭二つ分くらいあるので、それだけで怒られているような気分だ。
至極真面目な表情をして、見上げているりんの頬を包んで固定する。
(なん、だろ……)
りんが口を開いたのと殺生丸が動いたのは、ほぼ同時だった。
「……!? へ、へっひょ……」
しかし名を呼ぼうとした口からは、今夜二度目の間抜けな声。
りんの頬はまた、横にめいっぱい引き伸ばされていた。痛いやら恥ずかしいやらで訳が判らない。
ひとしきり遊ばれた後でやっと開放されたが、頬はじんじん熱い。
涙目でにらんでも相手は意に介すことなく、淡々と言葉を綴る。
「それが証だ」
「あかし……?」
「痛みもあれば、これだけ言っても聞かない強情さもある。人間でなくば何だというのだ」
呑み込んだ言葉を、知る筈がない。
なのに、殺生丸はいとも簡単にりんを重い縛めから解き放った。
「――人形なら、もっと扱いやすい」
そして、とても判りにくい。
さっきと同じ手とは思えないほど優しく触れられ、頬は違う熱を宿し始める。
瞼も熱くて仕方がなくて、溶けるように流れ出た滴が硬質な手まで濡らしていく。
「全く手間がかかるな……」
そう言う男の顔は、ひどく柔らかくて。

熱い。
止まらない涙が、触れられた場所が、身体中が、骨まで熱い。
こんなものは知らなかった。
あたたかい、あなたの手。そのぬくもりを知るまでは。
熱に浮かされた衝動。突き動かされるままに、りんは手を伸ばした。
くしゃくしゃの顔。こんなありさまで抱きついたら汚してしまう、でも。

これまで、自ら触れようとは決してしなかったりんの大胆な行動に殺生丸も面食らったようだった。
迷いながら後ろ髪を梳く手はいびつで、くすぐったい。
「……こうしたい、なんて前は考えたこともなかった。何も、なかったの。でも今は……あれも、これもって……欲張りになっちゃった」
「人間とはそういうものだ」
「お父さんのことは……」
「関係ない。同じことを何度も言わせるな」
「――……まだね、殺生丸さまに言ってないことがあるの」
一番、大事なことが。
「……何だ」

「ありがとう」

予想していたものと違ったのか、殺生丸は少々怪訝な面持ちになる。
それを見上げて、りんは笑った。
「ありがとう」

――あたしを見つけてくれて。
――傍に置いてくれて。
――たくさん、たくさん、ありがとう。

ありったけを込めて、繰り返した。
「……やっと笑ったか」
「え……?」
「笑っていろ。先程のような顔を見るのは不快だ」
「……はい」
「それから覚えておけ。お前に権限は無い。全てを決めるのは私だ」
「……はい、殺生丸さま」
傲慢な台詞。
けれどそれは、どんな聖なる書よりも真摯な誓いのようで。
いつの間にか雪は止み、代わりに銀の雨がゆっくりと降りてくる。
窓に映るふたつの影はひとつになり、暖炉の炎が爆ぜていた。

無いも同然だった命と身体。
このガラクタに、あなたは熱を与えてくれた。
あなたに触れられて、りんは初めて《りん》になった。
もう、糸はいらない。

【終】


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